概要
安堀雄文記念館は「越後妻有 大地の芸術祭」で9年間にわたり展示された架空の博物館。木村吉邦による美術作品。江戸時代に十日町へやってきた渡りの織物職人、安堀雄文が発明したとされる論理回路的な装置を残された資料から再現、それらを記念館として公開するという設定の計画。十日町市下条地区の使われなくなった公民館の2階を改装し、そこに再現品を展示した。
安堀雄文は架空の人物である。雄文が考案したとされる発明品のデザイン、機能、残された資料、解説文の雄文に関する記述などはすべて作者による創作で、その他の歴史的、技術的記述は、資料にあたって引用している。十日町は伝統的な絹織物の産地である。そして織物機械に用いられていた制御方式は、コンピュータが進歩する過程において技術的発想の重要な手がかりとなっていた。したがって織物職人である雄文が論理回路的な発想を得たとしても不自然ではない、という道筋で全体の構成を設定した。
展示にあたっては技術的な背景を解説したパネルを掲示したが、この人物と制作物が架空であることは記述していなかった。周辺技術と歴史的解説は資料の裏づけがあるため、主役である安堀雄文とその発明品に関する記述も事実であると信じる人が現れてしまう。実在の人物として展示の感想をネットにアップロードする例などもあった。
安堀雄文記念館は2015(平成27)年3月15日(日)をもって閉館し、大部分の制作物は撤去・廃棄された。しかしネット上には投稿が残り、検索すると、あたかも真実であるかのような記述が一人歩きしている。作品そのものの実体はもはや存在しないが、誤認した情報だけが静かに流通し続けている。
越後妻有での展示風景(2006)