鹽の氣象儀 Meteorological meter with salt
木製の天秤装置を据え付けた雨乞い祠を制作する計画。天秤の片側に塩をのせ反対側の錘で釣合わせる。様々な気象条件に連動して塩の吸湿度合が変化し、そこから生じる重量差を動力に天秤が上下する。瀬戸内の環境に呼応してゆるやかに脈動する祭壇といえる。
氣象儀とは大気の状態(=気温、気圧、湿度、雲量等)に反応し、その変化を読み取る架空の装置。動作を記録することで、取り巻く気象と装置との関連を、世代を超えて受け継ぐことができる。読み取る術は蓄積され、変動する装置の状態から将来の天候を予測する体系が生み出されるだろう。降雨の少ない瀬戸内においては、天候の予測により先行きへの漠然とした希望を得ることができる。明日の可能性を得ることで、自身にとって好ましい事態を呼び込む行動を無意識に選択するようになる。
雨乞いはカミに祈る行為だけではなく、自発的な意思で状況を知り、周囲に働きかけることも包含している。
より良い未来を自ら作り上げるようとする、人々の切実な願いをかたちにする。
氣象儀は塩の重量差を感知して動作する。海風や荒天など、挙動に影響を及ぼす要素を和らげるため、周囲に石積を築き盛土を施す。その形状は視界に入る瀬戸内の島々と相似しており、瀬戸内の環境を引き写す氣象儀の機能を示している。また水を象徴する白砂利は海の延長としての意味合いを持つ。
気象はもともと「宇宙の根元である気が形(象)となって現れること (大辞林 第三版)」 古事記にもその意味での記述がある。 「夫れ,混元既に凝りて,-未だ効(あら)われず/古事記 序訓」 儀は何らかの科学実験器械を意味する言葉。
氣象儀の作製時期に関する設定は、水道が普及せず、水の供給が天候次第であった時代を想定している。
雨乞い祠は気脈、水脈など古代からの記憶をよりどころとして築かれる。地形的に気候変動のきざしを感じ取りやすい場所が受け継がれてきた。