うごきゑからくり - 快適なオフィスのための三つの提案 -
うちわを放射状に並べ歯車機構で回す手動扇風機ともいえる装置が江戸時代に存在した。当時それなりに流行したらしく、文政12年(1829年) - 天保13年(1842年)刊の「偐紫田舎源氏」には、このような装置を使っている図が初代国貞よって描かれている。また二代国貞による「あつまけんしみたて五節句」にも同様の装置が描かれている。
これらの扇面には、いずれも何らかの図像が描かれていた。ほとんどが涼感をさそう季節の柄であったため似通った図が並ぶ。ある時、回した扇面の図が動くように見えるのを偶然発見した者がいたらしい。
いわゆる「うごきゑからくり」の始まりである。
この作品は「うごきゑからくり」を現代のオフィスに設置し、そこで働く人々にとって健康で文化的な心地よい空間をつくりだすための装置として再現する事を目指した。
かつての手動扇風機と同様うちわを放射状に並べ、その扇面に連続した絵を描く。視界制限と風向制御を兼ねた導風板を連動させて回すと隙間から扇面に描かれた絵が動いて見える。素朴な動く絵により知的好奇心を呼び起こす効果が期待できる。
動力はハンドルを回して得る。適度な負荷のこの動作は執務中の緊張をほぐすストレッチとなり、就業者の健康増進に有用であろう。また手動扇風機としての機能も維持しているため、オフィス内フィットネス活動の剰余エネルギーを利用した非電力の空調装置としての活用も期待できる。
この装置および一連の操作・鑑賞者の行為が、オフィスの文化、健康、環境を改善する三つの提案となる。
うごきゑを滑らかに動かすためには、回転する絵が同時に視界に入らないように工夫をしなくてはならない。
左は導風板による視線制限の模式図。(イ)の扇面のみが見える範囲をa~b で示している。
導風板の隙間から見るため、扇面に描きうる絵の範囲が図のように決まってくる。
扇面に描かれる絵は任意。うちわを交換して別のうごきゑにすることもできる。
回転半径の大きいクランクは肩を回す運動になるだろう。将来的には別の運動を起こす入力部に交換することも出来る。
また扇面の回転によって発生する気流により空調効果も期待できる。